ここ数年、美容医療の世界的開発競争の一分野は、脂肪減少治療(Lipolysis) であったことは、以前にも述べたと思います。
脂肪減少治療で、量的に最も効果の見込めるのは、やはり手術による脂肪吸引です。
しかし、美容のために手術までするのか?体にメスを入れるのか?傷や後遺症は残らないのか?など、多くの人にとって治療を決断する上で、これらの疑問符は高い障壁になります。
私が研修医のころ、初めて経験した脂肪吸引は衝撃的でした。
患者さんは全身麻酔で、お腹にいくつかの穴を開け、直径1cm近くの管を穴に差し入れ、それこそ、「ボコンボコン」と脂肪を吸引するのです。黄色い脂肪が大きな塊で、どんどん吸引機のビンに貯まっていきます。いわゆるメタボのお腹ならば、この方法が一番良いのでしょうが、多くの脂肪を取り除いた後の皮膚のたるみや取りすぎのリスクもあります。
また、一度に多くの脂肪を除去すると、出血量や全身的に与える影響が大きくなったり、脂肪成分が血管内に多く入りすぎ、脂肪が肺の血管に詰まってしまう、肺塞栓症になるリスクがあります。当時は、病院に入院し全身管理をしっかりとし、大きな手術で一度に劇的変化を求めることが主流だったのです。 しっかりした術後管理をすれば、大きな問題はほとんど起きません。
その後、数年でこのような激しい脂肪吸引はほとんど行われなくなり、自分自身で、脂肪吸引手術を手がけるようになった頃には、いわゆるウエット法(トゥメッセント法)に手術法のトレンドが変わっていました。
ウエット法は、あらかじめ脂肪層に生理食塩水や局所麻酔剤を浸透させて、脂肪を柔らかくし、2〜3㎜程度の小さな切開から、細い管で脂肪を吸引します。激しい脂肪吸引に比べると一度に取れる量は減りますが、出血量も少なく、体に与えるダメージ、リスクも大幅に軽減されます。
「安全な脂肪吸引」と言っても良い治療法です。
さらに、ウエット法は、超音波を皮膚の上からかけ、より脂肪を柔らかくして吸引しやすい状態にする、体外式超音波脂肪吸引へと発展します。
ちょうど私が開業した頃には、この方法が最新方法として行われることが多くなっていました。
ウエット法や体外式超音波法は、脂肪に対して前処置を行うことで、より安全で効果のある工夫をした、脂肪吸引です。このようなリスクを軽減する方法は、古い脂肪吸引法に比べ吸引量が控えめになるのですが、日本人の体型や好みに合っているので、今でも優れた方法だと思っています。
よく、
「メスを使わない脂肪吸引」
と言うキャッチフレーズを痩身治療の広告で見ることがありますが、
一度に多くの脂肪が吸引できる、激しい脂肪吸引を経験していると、
そんなものは、現実にはないことが良くわかります。
意味わかりますよね。
本当のところ、手術なしに、どの程度まで脂肪は除去できるのでしょうか?
つづく